久しぶりにぐっすり眠って、3時間ほど経過した頃だろうか、花京院は目を覚ました。 「ヤバい、寝過ぎた!」 そう思って飛び起き、階段前の様子を伺えば、承太郎はまだそこで眠っていた。 彼も睡眠は長いたちらしい。 足音を立てないように、そうっと忍び寄る。 彼の黒い体は確かにとても恐ろしく見えたが、こうして眺めてみれば、筋肉がよくついた腕も、長く太い角も、彫りの深い顔立ちも、とても……美しく見えた。 惜しむらくは、と花京院は思った。 あのきらきら光る瞳が見られればよかったのに。 花京院は身をかがめ、承太郎の額から生えている太い角の先端に、触れるか触れないかのキスをした。 途端、黒い腕が跳ね上がり、伸ばした首をがっちりと掴まれた。 「ぐ、う…」 息が詰まって非常に苦しい。 このままもう少し力を込められれば、あっさりと墓の下墓死んでゲームオーバーすると墓が表示される。が実際はダンジョン内に死体やら骨が散らばるだけだろう。行きだろう。 ああ、案外短かった冒険者人生……できたらあのエルフみたいに、きれいに魂を食べて欲しい。 花京院が遠のく意識でそんなことを考えていると、ふっと指の力が緩められ、承太郎の片眉が上がった。 「なんだ、お前か」 言うと、ぱっとその手が離される。 「ゲホ、ゲホッ……」 「そんな風にこっそり近づくから敵のモンスターかと思ったぜ、花京院」 「君、僕のことを…?」 「ああ、どうやら記憶苔にやられたようだな。持ち物を鑑定しなおしてた時にお前のことも思い出したぜ」 「よかった!…ああ、ええと……君は多分、このフロアで一番強い敵だろうから、……つまり、敵でいると、ということだけど」 「そうだな、俺も…まあ、なんていうか、遠距離ならお前は手強いと思ってるぜ」 「そりゃあ僕は有能なメイジだからな。遠距離でしか戦わないように振る舞ってるよ。誰かさんがいなければ敵を起こすこともない」 「言うな、おい」 承太郎はニヤリと笑って花京院の頭を小突いた。 お互いのことを思い出して、そして出会ったからには、また二人で行動する。 そのことにもう、二人とも、何の疑いも持っていなかった。 >>戻る |