ある春の日の

珍しく原作軸。どうということのない承花。

エジプトはカイロで腹に大穴を開けた僕は、SPW財団の信頼できる医師たちと、そして僕のために頑張ってくれたハイエロファント・グリーンのおかげで、数カ月後にめでたく目を開けることができた。
そして、傍らで目を見開いて驚いた後に、今まで見たこともないような安堵の表情を浮かべ、それからなんと僕に抱きついてきた空条承太郎が、毎日毎日僕の元へと見舞いに来ていたせいで、出席日数が足らなくなって留年したと聞いて呆然とした。
アホか君は。
いや君が頭がいいことは知ってるんだが。
だが承太郎は、これでいいぜ、と笑って、更にこう言った。
「これでてめーと同級生だからな。一緒に学校に通えるぜ」
「え」
「え」

 

肉の芽が埋まっていたからあまりはっきりとは覚えていないが、確かに僕は、承太郎を襲う前に「この学校へ転校してきた」と言った。
でも、考えてみて欲しい。
僕はあの頃、空条承太郎を殺すことを第一に考えていた。
彼に自然に近付くためなら何でもするつもりだった。
それで彼に戦いを挑み、見事その首をとったなら、そのままエジプトに引き返すか、日本でDIOの奴隷として活動することになっていただろう。
もし承太郎に負けたのなら、それこそ僕はそこで終わりだ。
承太郎が僕の命を奪わないとしても、肉の芽がそれを許さないだろう。
僕は、そう、そこで死ぬはずだった。
だからつまり、承太郎の学校へ転校する必要は、一切なかったわけだ。
実際僕は、どこかのクラスで挨拶したとかではなく、保健室に直接赴いた。
つまり、なんだ、転校したというのは真っ赤な嘘だった。
僕は承太郎とは別の学校に籍を置いている。

 

このことを喋っていくうち、承太郎の顔はどんどん険しくなっていった。
点検に来た看護師が慌てて引っ込んだくらいだ。
「だから悪いんだけど、一緒に学校へは行けないんだ」
「……………そうか」
そこでは承太郎は、そう言って引き下がった。
それでも友達だよね、もちろんだぜ、と確認し合い、僕はリハビリに向かったというわけだ。

 
 

そうやって僕は、無事に復学を果たした。
医師の皆さん、ハイエロファント、そして承太郎には感謝してもしきれない。
数ヶ月も休んでいた僕へ、どうしてたんだという質問がなかったわけではないが、友達でも何でもないクラスメイトたちは、別に、と答えればそれ以上は詮索してこなかった。
で、教科書を必死に読んで補習を受けて、ようやく普通の生活に戻……ろうとしたその頃だ。
僕のクラスに、転校生がやってくることになった。
ふーん、まあどうでもいいか、と思っていたのは、転校生が紹介されるその日の朝までだった。
いつもは偉そうにしている教師が、妙におどおどした様子で、「入ってきなさ…きてください」と声をかけた。
そうして入ってきた生徒を見て、教室内は一気に騒然となった。
それも当然だろう。
やってきたのは、身の丈2メートルにもなろうかという、筋骨隆々の大男だった。
それでもバランスの悪いマッチョな印象を受けないのは、体全体が引き締まっているせいだろうか。
すらりと長い足のためもあるかもしれない。
あるいは顔も、その一因だろう。
なにせ彼の顔は、ギリシア神話の英雄もかくや、という程に整っていたのだ。
長いまつげやぽってりした唇は、ともすれば女性的に見えるのに、彼の彫りの深い顔の上に見事な調和で配置されれば、それは彼をこれ以上ないほどの色男に見せていた。
高く通った鼻筋も、力強い眉も、彼の魅力の一部であったが、何よりもあの目!
少し垂れ目気味の大きな瞳は、きらきら光るグリーンだった。
そしてそれは、まっすぐ僕を射抜いていた。
これで僕が、彼、空条承太郎をひと目見ようと身を乗り出す生徒たちとは別に、机の上に突っ伏したのがお分かりになるだろう。
うそだろ承太郎、君、親の都合で転校とかしないだろ。
どう考えても僕が理由じゃないか。
マジか君、ここまでやるゥ?
僕は、承太郎が女子を卒倒させるバリトンボイスで名乗る間もずっと、机の上から顔を挙げなかった。
だって、もし顔を上げたりしたら、バレてしまうじゃあないか……どうしても顔がニヤけるのを止められないでいるのに。

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