鉄獄より愛をこめて 41F

”醜い男だが、一番の特徴はその醜さではない。”

ところが次の時もその次の時も、花京院は何やら渋って、承太郎の誘いを断った。

同じ部屋には泊まるのだが、極力肌を見せないようにしている気がする。
もしかして、もしかしたら、もう自分とはそういうことをしたくないんだろうか…………なぜ?
他に誰かがいるとは考えにくい。
地上ではお互い一人の時間も作っているが、その間に誰かと何かあったなら、あっという間に噂になるだろう。
自分たちはよくも悪くも有名なのだ。
では、もっと単純な理由、つまり俺のことなど好きでもなんでもなくなった、ということだろうか。
だがもしそうならば、どうして彼は、あんな泣きそうな顔で見上げてくるのだろう。
承太郎は頭をかいて、一人でうだうだ考えるのをやめることにした。
「おい花京院」
「……なんだい承太郎、何か話でもあるのかい」
「話があるのはてめーのほうだろ」
「…………よく分からないな」
「本当に?俺に言うことは何もねえのか?」
承太郎はぎらりと光る緑の目で花京院を見た。
その目は炎に燃えている。
花京院は一瞬目を泳がせたが、ひとつため息を付いて承太郎と目を合わせた。
どうしてその目が潤んでいるのだろう?
「承太郎、頼みがある」
「なんだ」
「言う前に約束してくれ、叶えてくれるって」
「それはできねえな」
「じゃあ言えない、と言っても?」
「いいや、お前は言うね。さっき決心がついたからな」
「………ハァ、君には負けるよ」
花京院は小さく苦笑して、承太郎にしなだれかかってきた。
妙に甘い匂いがする。
「君にしか頼めないことなんだ。どうか、僕を………食べて欲しい」
「それが頼みか」
「そうだ」
「俺が断ることくらい分かってんだろうが」
「だけど、僕はそうして欲しい。切実な願いだと、一生に一度だと言っても駄目かい」
「駄目だね」
「このチャンスを逃したら、もう二度と食べられないとしても?」
「……なぜそうなる?」
「それは、……それは、ああ!」
花京院はぶるぶると痙攣した。
「おい、どうした!?」
「あ、あ……ああ、もう遅い!」
花京院はそう叫ぶと、大きくのけぞった。
その喉元や手首が、バキバキとヒビ割れて剥がれ落ち、茶色くざらついた皮膚が現れた。
げふり、と咳き込んで、彼の口から溢れでたのは、色とりどりの花びらだった。
そのまま花京院は倒れ伏した。
駆け寄った承太郎が見たものは、体中から花や若葉を芽吹かせた、エントの姿だった。