”醜い男だが、一番の特徴はその醜さではない。”
ところが次の時もその次の時も、花京院は何やら渋って、承太郎の誘いを断った。
同じ部屋には泊まるのだが、極力肌を見せないようにしている気がする。
もしかして、もしかしたら、もう自分とはそういうことをしたくないんだろうか…………なぜ?
他に誰かがいるとは考えにくい。
地上ではお互い一人の時間も作っているが、その間に誰かと何かあったなら、あっという間に噂になるだろう。
自分たちはよくも悪くも有名なのだ。
では、もっと単純な理由、つまり俺のことなど好きでもなんでもなくなった、ということだろうか。
だがもしそうならば、どうして彼は、あんな泣きそうな顔で見上げてくるのだろう。
承太郎は頭をかいて、一人でうだうだ考えるのをやめることにした。
「おい花京院」
「……なんだい承太郎、何か話でもあるのかい」
「話があるのはてめーのほうだろ」
「…………よく分からないな」
「本当に?俺に言うことは何もねえのか?」
承太郎はぎらりと光る緑の目で花京院を見た。
その目は炎に燃えている。
花京院は一瞬目を泳がせたが、ひとつため息を付いて承太郎と目を合わせた。
どうしてその目が潤んでいるのだろう?
「承太郎、頼みがある」
「なんだ」
「言う前に約束してくれ、叶えてくれるって」
「それはできねえな」
「じゃあ言えない、と言っても?」
「いいや、お前は言うね。さっき決心がついたからな」
「………ハァ、君には負けるよ」
花京院は小さく苦笑して、承太郎にしなだれかかってきた。
妙に甘い匂いがする。
「君にしか頼めないことなんだ。どうか、僕を………食べて欲しい」
「それが頼みか」
「そうだ」
「俺が断ることくらい分かってんだろうが」
「だけど、僕はそうして欲しい。切実な願いだと、一生に一度だと言っても駄目かい」
「駄目だね」
「このチャンスを逃したら、もう二度と食べられないとしても?」
「……なぜそうなる?」
「それは、……それは、ああ!」
花京院はぶるぶると痙攣した。
「おい、どうした!?」
「あ、あ……ああ、もう遅い!」
花京院はそう叫ぶと、大きくのけぞった。
その喉元や手首が、バキバキとヒビ割れて剥がれ落ち、茶色くざらついた皮膚が現れた。
げふり、と咳き込んで、彼の口から溢れでたのは、色とりどりの花びらだった。
そのまま花京院は倒れ伏した。
駆け寄った承太郎が見たものは、体中から花や若葉を芽吹かせた、エントの姿だった。