鉄獄より愛を込めて 4F

”無害だと思ったのも無理はないが…。”

久しぶりにぐっすり眠って、3時間ほど経過した頃だろうか、花京院は目を覚ました。

「ヤバい、寝過ぎた!」
そう思って飛び起き、階段前の様子を伺えば、承太郎はまだそこで眠っていた。彼も睡眠は長いたちらしい。
足音を立てないように、そうっと忍び寄る。彼の黒い体は確かにとても恐ろしく見えたが、こうして眺めてみれば、筋肉がよくついた腕も、長く太い角も、彫りの深い顔立ちも、とても……とても美しく見えた。惜しむらくは、と花京院は思った。あのきらきら光る瞳が見られればよかったのに。
花京院は身をかがめ、承太郎の額から生えている太い角の先端に、触れるか触れないかのキスをした。途端、黒い腕が跳ね上がり、伸ばした首をがっちりと掴まれた。
「ぐ、う……」
息が詰まって非常に苦しい。このままもう少し力を込められれば、あっさりとの下行きだろう。ああ、案外短かった冒険者人生……できたらあのエルフみたいに、きれいに魂を食べて欲しい。
花京院が遠のく意識でそんなことを考えていると、ふっと指の力が緩められ、承太郎の片眉が上がった。
「なんだ、お前か」
言うと、ぱっとその手が離される。
「ゲホ、ゲホッ……」
「そんな風にこっそり近付くから敵のモンスターかと思ったぜ、花京院」
「君、僕のことを……?」
「ああ、どうやら記憶苔にやられたようだな。持ち物を鑑定しなおしてた時にお前のことも思い出したぜ」
「よかった! ……ああ、ええと……君は多分、このフロアで一番強い敵だろうから、……つまり、敵でいると、ということだけど」
「そうだな、俺も……まあ、なんていうか、遠距離ならお前は手強いと思ってるぜ」
「そりゃあ僕は有能なメイジだからな。遠距離でしか戦わないように振る舞ってるよ。誰かさんがいなければ敵を起こすこともない」
「言うな、おい」
承太郎はニヤリと笑って花京院の頭を小突いた。お互いのことを思い出して、そして出会ったからには、また二人で行動する。そのことにもう、二人とも、何の疑いも持っていなかった。