鉄獄より愛をこめて 35F

”なんでみんなそんなことやりたがるんだ?”

承太郎と花京院は””を歩いていた。

”城”に来ていたのには、大きな理由はない。
いつも”鉄獄”なので、気分転換だ。
冒険者にも様々なタイプがいる。
”鉄獄”一本にしぼり、他のダンジョンには一切足を運ばないタイプ、色々なダンジョンに攻略マークを付けたがるタイプ。
一番多いのは、”鉄獄”をメインに、ボスが持っているアイテムが欲しいダンジョンにだけ行くというタイプだ。
ちょっと変わったところだと、アーチャーはモンスターの骨から矢を作る技能を持っているので、骨がよく拾える””や”カメレオン洞”に行くらしい。
承太郎と花京院も、”鉄獄”をメインに活動する冒険者だ。
だが、冒険のための冒険をしたいときや、単に気が向いたときなどは、他のダンジョンに行くこともある。
今回もそういったパターンだった。
二人は”城”の冷たい空気の中を歩いて行った。
「!承太郎、アーチ=ヴァイルが来てる!右の通路の奥だ」
花京院が承太郎に耐性の魔法をかける。
承太郎は魔法書を開いた。
暗い通路の向こう側から、真っ赤な火の玉が次から次へと飛んできた。
「うわッ!」
後ろで花京院が声を上げたが、こいつとはスピードの勝負をするしかない。
承太郎は振り向かず、遠距離攻撃の魔法を放った。
やがて通路の暗がりが静かになる。
「おい、大丈夫か花京院」
「だい、じょうぶだ……傷は浅い。一発もらってしまったが、直後に二重耐性が張れた。僕はいいんだが…」
「何だ?」
承太郎は周りを見回していた視線を花京院に向けた。
「テメー、それ」
「ああ、燃やされてしまった」
花京院は途方に暮れたような顔で、ページが燃えて煤けている魔法書をぱたぱたしている。
「どれがやられた?」
「『カオス魔導』だ。カオスの領域、3冊目。2冊目までは予備があるんだが……困ったな」
「戻るか?」
「戻ってもどうしようもないからなあ。進もう。新しいのが見つかるのを期待するしかないよ」
「まァそうだな」
承太郎も、こればかりはどうしてやることもできない。
承太郎の魔法領域は暗黒だから、貸してやるわけにもいかないのだ。
仕方なく、二人は探索を再開することにした。

そうして、とある小部屋の扉を開いたときだ。

その部屋には、テレパシーで感知できるモンスターはいなかった。
承太郎についで部屋の中に入った花京院が、日の光の魔法で部屋を照らす。
小部屋はあまり広くはなく、隅の方に階段がひとつあるきりだった。
なんだ、なにもないのか。
そう思って二人が踵を返し、部屋から出ようとしたそのとき。
ぎいやあああああああ!!
と、つんざくような悲鳴が響いた。
慌てて振り返る。
だが部屋の中にあるのは階段だけ……階段!
地獄への階段か!」
承太郎と花京院は二人とも反射的に攻撃魔法を唱えた。
がらがらがら、と崩れるような悲鳴を上げ、地獄への階段は動かなくなった。
面倒なデーモン召喚をされる前に叩けてよかった。
二人はふうとため息を吐いた。