鉄獄より愛をこめて 24F

”あなたが何点の経験値になるか考えている。”

さて、承太郎と花京院は“鉄獄”をうろうろしていた。これはいつものことだし、強敵に出くわして戦い、休憩するのもいつものことだ。

今回の敵はドローレムだった。こいつはテレパシーで感知できないのがいやらしいモンスターで、知らぬ間に近付かれた承太郎と花京院は苦戦を強いられた。
「あ、やばい。承太郎」
「ああ。あっちの通路から何か来てるな」
「まだ回復しきってないのに……仕方ない」
花京院は立ち上がり、ザックに手を突っ込んで薬を取り出した。ぐいと一気に煽る。途端。
「ぐ、う!?」
花京院の手から滑り落ちた薬の瓶は、ダンジョンの床にぶつかってがしゃりと割れた。
「っか、…」
「花京院!? おい大丈夫か!?」
肩を掴んで、承太郎は彼の目を自分の方に向けさせた。その目が大きく見開かれる。それから花京院は盛大に顔を歪め、素早く魔法書をめくってテレポートの呪文を唱えた。彼の体は一瞬のうちに消え去り、承太郎の腕はだらりと空を切った。
承太郎は息が詰まるのを感じた。花京院が見せた表情、あれは、紛うことなく、恐怖だった。

承太郎は花京院に何が起きたのか調べようと、床に散らばった薬の瓶を手にとった。そこでふと気付く。瓶の色は、薄い青色をしている。だが体力回復の薬の瓶の色は、濃い青色ではなかったか? 彼は間違えて別の薬を飲んだのだ。

ではそれは何か。花京院に向けられた、恐怖に歪んだ顔を思い出す。ああいう表情にはとても覚えがある。すなわち、食べ物となる人間やエルフ、ホビットなんかが見せる顔である。
承太郎はため息を吐いた。十中八九、彼が飲んでしまったのは、記憶喪失の薬だろう。自分がそうなってしまったことはあるが、まさか彼まで。
魔法や薬による記憶喪失は、自分がどこの誰か分からなくなるとか、覚えた魔法が使えなくなるとか、そこまでの症状は引き起こさない。花京院も、自分の持ち物に見覚えのないものが入っていて、しかもそれらが未鑑定の状態になってしまっているから、自分の身に何が起きたかは分かるだろう。
……願わくば、自分のこともすぐに思い出すように。承太郎はそう思って、彼を探してダンジョンを歩くことにした。