承太郎と花京院は、”鉄獄”を冒険していた。 レベルも十分だし、行けるところまで行っては、危なくなる前に戻る。 目下のところ二人の目標は、更に奥まで行けるよう、耐性パズルを埋めることだった。 耐性パズルとは何かというと、その名の通りダンジョンを潜るのに必要な耐性を、装備品を組み合わせることで一通り揃えることだ。 必要な耐性は、2つや3つではない。 麻痺や恐怖といった状態異常を防ぐものから、冷気、毒、カオスや放射能などの属性攻撃を軽減するものまで、「あったら嬉しい」程度の浮遊能力やテレパシー能力まで含めると、装備品に求められる耐性・能力は23個にも及ぶ。 高級以上の装備品にはそれぞれ固有の耐性がひとつや複数ついており、それらを組み合わせてなるべく多くの耐性を得ることを、耐性パズルというのだ。 武器や防具は、単純なステータス値よりその耐性で選ばれることが多い。 唯一無二のアイテム、アーティファクトが喜ばれる理由は、普通のアイテムに比べて付与されている耐性が多いからに他ならない。 承太郎が今抜けている耐性は、カオス耐性と盲目耐性と破片耐性、花京院は地獄耐性と毒耐性と閃光耐性と恐怖耐性である。 ただ花京院はこの間「真・耐性」の呪文を覚えた所であった。 この魔法は、唱えてから一定ターンの間、酸・電撃・炎・冷気・毒の耐性がつくというものである。 装備品にその耐性がある場合、二重耐性となる。 モンスター感知と合わせてこの魔法を使うことで、二人の防御力は鉄壁……は無理でも、銅の壁くらいまでの強固さを持つことができるようになっていた。 とはいえ、もちろん花京院のMPは攻撃の際にも必要となる。 MPの管理こそが魔法職の腕の見せどころというわけだ。 ちなみに承太郎も魔法を使う職業ではあるのだが、彼の暗黒の魔法領域はそのほとんどが攻撃魔法なので、防御はからきしである。 そんなふうに歩いていた二人だが。 「ん?」 「どうした?」 「何かいる……そこを右に曲がった先の部屋だ。生物じゃあないな。無機物だ」 「分かった」 承太郎はウォー・ハンマーと魔法書を構え、花京院も魔法書を2冊構えて、二人は部屋に踏み込んだ。 それから二人とも、今来た方に向かって、全速力で駆け出した。 部屋の中には濃霧が立ち込めていた。 それはぐるぐると渦巻く螺旋状の煙霧で、パチパチとスパークがはぜていた。 ………不可解な煙霧不可解な煙霧霧タイプのモンスター。カオス、因果混乱、放射性廃棄物のブレスを吐く。因果混乱と毒(放射物)の耐性がないうちは絶対に戦ってはいけない。だ。 それは承太郎と花京院が部屋に入ってくる前から気づいていたようで、猛烈な勢いで追いかけてきた。 「耐性……耐性!」 花京院は喘ぎながら叫んだ。 片手で魔法書をめくり始めた花京院を、承太郎が持ち上げて小脇に抱え、そのまま走る。 花京院は真・耐性の呪文を唱えた。 カオスと因果混乱はこの魔法ではカバーできないから、それは花京院本人に対して放たれた。 彼の体を魔力の光が取り囲み始める。 それが完全に花京院の体を覆うその直前、承太郎に抱きかかえられている彼の、後ろに投げ出された足に、不可解な煙霧が追いついた。 バチバチと嫌な音を立て、花京院の左足がちかちかした霧に包まれる。 「ガッ、ァ…!」 「花京院!!クソッ離れやがれ!」 承太郎は背後の煙霧に向かって、矢継ぎ早に暗黒の魔法を飛ばした。 霧が怯んだ隙に、承太郎は花京院を抱えたまま、あちらの通路からこちらの通路へと逃げまわった。 「………やっと撒いたか。おい花京院、大丈夫か?」 「だい……じょうぶ、だと、思う」 花京院はそう答えたが、その額には嫌な汗が光っていた。 「ちょっと、吐き気がする……でも大きなダメージではないよ。少し休めば大丈夫だ」 それで承太郎が見張りに立ち、花京院はゼイゼイと息を整えた。 「………ふぅ、落ち着いたよ。ありがとう、承太郎。毒をもらったが、抜けたようだ。もう大丈夫」 「よかったぜ」 花京院が落ち着いたので、二人は探索を再開した。 花京院は左足にずっと違和感を感じていたが、状態異常を受けたときはだいたいいつもそうなので、あまり気には留めなかった。 >>戻る |