「花京院、ちょっと休憩してもいいか?」 「え?構わないが、さっきもしただろう。お腹でも空いたのか?」 「いや、腹は膨れてるんだが」 「どうかしたのか?」 「分からん。だがなぜか、体が重い気がする」 「?」 周囲にモンスターの気配がないことを確認してから、二人は腰を下ろした。 花京院が自然の領域の治癒魔法を承太郎にかける。 「どうだい?」 「うーむ…変わらん気がする」 「不思議だな。今日はここまでにして、地上に戻ろうか」 「そうするか。悪いな」 「気にするなよ」 二人は帰還のロッドを振るい、地上へと舞い戻った。 ダンジョンには昼も夜もなく、一日をリズムよく過ごす冒険者などは皆無だ。 何日も平気で起きていられる種族が多いのもある。 そのためこの世界では、宿や店などは基本的に24時間オープンしている。 二人が地上に出たのは、太陽が沈みきった真夜中だったが、冒険者向けの宿の主人は嫌な顔ひとつせずに部屋を開けてくれた。 「うちには二人部屋はないんだ。悪いね」 彼はそういったが、バルログや半巨人半巨人プレイヤーが選べる種族の一つ。その名の通り、ハーフの巨人。脳筋タイプ。なんかのための、大きめの部屋を用意してくれた。 「ふう、なんだかんだ僕も疲れていたみたいだ。今日はもう寝ようか」 「そうだな」 二人は倒れるようにしてベッドにもぐりこんだ。 花京院はふと、小さな違和感をおぼえた。 なんだろう。 だがその正体を知る前に眠気がやってきて、彼らはぐっすりと眠り込んでしまった。 ごろり、と寝返りをうつ……寝返り? 承太郎と一緒のベッドに入って、寝返りがうてるなんてありえない。 もう起きだして、ベッドから出たんだろうか。 花京院はうっすらと目を開けた。 その視界には、しかし、黒い人影がある。 「………んんん!?」 花京院ははっきりと覚醒して、体を起こした。 自分の横で寝息を立てている人物。 夜の闇のように黒い肌、太い角、体に走る白い筋。 間違いなく承太郎のものだ。 だが。 「ちょ、ちょっと承太郎、きみ承太郎だよな?起きろ!」 花京院がぺしぺしその頬を叩くと、彼のまつげが震え、その瞳が開かれた。 深い深いエメラルドグリーン。 「ああ、よかった承太郎だ。きみ一体どうしちゃったんだ?」 「どうしたって何が……ん、俺の声、なんだか高くねえか?」 「声だけじゃあないぞ。とりあえず鏡を見てみろ」 花京院に促されて、承太郎は起き上がった。 「ん?この部屋、こんなにでかかったか?」 首を傾げながらも、鏡の前に立つ。 そこで承太郎は仰天することになった。 >>戻る |