今の承太郎には、テレパシーの能力がある。 同じフロアに居る花京院を探すことは、それほど難しいことではなかった。 けれど彼は立ち回りが非常にうまく、テレパシーの範囲にとらえたと思ったら、テレポートしたのだろう気配が消えるのだ。 向こうもモンスター感知を怠っていないのだろう。 しかし「上級デーモン」で察知して逃げられるということは、やはり承太郎のことを思い出してはいないのだ。 承太郎はため息を吐いて首を振った。 それならそれでいいじゃあないか、という気持ちにはなれなかった。 今の承太郎において、ダンジョンを潜ることと花京院の隣にいることは同義だった。 それにしても出会えない。 テレパシー範囲の隅で消えた人間のようなモンスター、あれはもしかして花京院ではないのか? 承太郎は焦れてザックからテレポートの杖を取り出した。 足で近付けないのなら、魔法を使うまでだ。 一回目のテレポートで目の前に現れたのは、宙に浮く目玉だった。 暗黒の魔法を放って、そいつを地に落ちて動かない目玉にしてから、承太郎はまた杖を振った。 失敗。 もう一度。 今度は成功して、承太郎は小部屋の中にテレポートした。 …見つけた! 「花京院!」 「!?どうして僕の名を!?」 「まだ記憶が、」 承太郎はその続きを声に出すことができなかった。 花京院が矢継ぎ早に撃ってきた攻撃魔法のせいだ。 承太郎はそれをガードしたり、軽いブレスを吐いて相殺したりしたが、花京院本人に攻撃ができるはずもない。 承太郎がもたついている間に花京院は身を翻し、通路の方へ走っていってしまった。 「……クソ!」 承太郎は大きく舌打ちして座り込んだ。 埒が明かない。 近付くことができないなら、向こうから近付いてもらうしかないのか? だがそれには、花京院に記憶が戻るまで待たなければならないということか? もし、もしも、ずっと記憶が戻らなかったら…? 冗談じゃあねえ。 承太郎は立ち上がって、また彼を探し始めた。 いいアイディアは浮かんでこないが、ここでじっと待つよりずっとマシだ。 ところが。 それからフロア内をうろうろしても、花京院らしきモンスターが感知できなくなったのだ。 逃げるにしても、向こうも感知をしてからテレポートするはずなのだが…。 承太郎は嫌な予感に冷や汗を流した。 もしかして、もう、このフロアにはいないのかもしれない。 >>戻る |