鉄獄より愛をこめて 8F

”よだれを垂らして楽しそうにしているが、それ以上の何を期待するのだろうか?”

承太郎と花京院は、また一緒に行動すると決めたものの、やはり一度地上に戻ることにした。この辺りの階層は二人でも進むのが難しいし、モンスターの邪魔の入らないところで、色々と相談したいと思ったのだ。

今度も彼らは手を繋いで、承太郎のロッドを振るってダンジョンから帰還した。それから彼らは、宿で隣の部屋を取った。冒険者を相手にした宿のどこにも、二人以上泊まれる大きな部屋などはないのである。
承太郎が花京院の部屋にやってきて、彼らはベッドと床に座って話をした。
「君も気付いていると思うが、あの一番重要なダンジョン…… “鉄獄”を更に潜るには、僕らはまだちょっと、レベルが足らない」
「俺もそう思う。装備品ももうちょっといいものを揃えたいところだ」
「ああ。それで、僕らは別のダンジョンでレベル上げとアイテム探索を行うべきだと思う」
「同意する」
「僕らのレベルだと、40階層から50階層ってところだろうか。“”か“”に行ったことは?」
「どちらも行ったこと自体はあるが、あまり奥まで潜ったことはねえな」
「僕も、どちらも30階とちょこっとくらいといったところかな。この辺りから攻めていこう」
「ああ。近いところで“山”から行くか」
「いいね」
「じゃあ、準備して明日の朝、部屋の前で落ち合おう」
「ああ」
そこで二人は別れ、花京院はザックを背負って貸し倉庫に赴いた。少々迷ったが、帰還の詔の巻物の束を全て倉庫の中に突っ込んだ。それから中をごそごそして、埃を被っていた回復モンスターの魔法棒スピード・モンスターの魔法棒を取り出した。まさか役に立つ日がくるとは。
使わないものを並べていた一角を探っていると、コロリとワインが転がり出てきた。いつのものだろう?倉庫に入れた覚えはあるが、それがいつくらい前かはまったく思い出せない。まあ、ちょうどよく熟成されているだろう。
上機嫌でそれを宿に持って帰ると、ちょうど承太郎も倉庫から帰ってきたところだったらしい。その手には乾し肉を二つぶら下げている。承太郎は花京院が手にしているワインを目に留めてニヤリと笑った。

バルログである承太郎には、そもそも安宿のベッドはギリギリのサイズで、彼はベッドを花京院に譲って床で眠ることになった。―――もちろんそれは理性的な話し合いで決定したことではなく、酔っぱらいの足蹴で決まったことなのだが。

次の日彼らが“山”に向かって出発したのは、もう昼を回ってからだったが、それも仕方のないことだろう。