鉄獄より愛をこめて 25F

”偉大なイークで魔法を得意としているが、やっぱりイークだ。”

今の承太郎には、テレパシーの能力がある。同じフロアに居る花京院を探すことは、それほど難しいことではなかった。けれど彼は立ち回りが非常にうまく、テレパシーの範囲にとらえたと思ったら、テレポートしたのだろう、気配が消えるのだ。向こうもモンスター感知を怠っていないのだろう。

しかし「上級デーモン」で察知して逃げられるということは、やはり承太郎のことを思い出してはいないのだ。承太郎はため息を吐いて首を振った。それならそれでいいじゃあないか、という気持ちにはなれなかった。今の承太郎において、ダンジョンを潜ることと花京院の隣にいることは同義なのだ。
それにしても出会えない。テレパシー範囲の隅で消えた人間のようなモンスター、あれはもしかして花京院ではないのか? 承太郎は焦れてザックからテレポートの杖を取り出した。足で近付けないのなら、魔法を使うまでだ。
一回目のテレポートで目の前に現れたのは、宙に浮く目玉だった。暗黒の魔法を放って、そいつを地に落ちて動かない目玉にしてから、承太郎はまた杖を振った。失敗。もう一度。
今度は成功して、承太郎は小部屋の中にテレポートした。……見つけた!
「花京院!」
「!? どうして僕の名を!?」
「まだ記憶が、」
承太郎はその続きを声に出すことができなかった。花京院が矢継ぎ早に撃ってきた攻撃魔法のせいだ。承太郎はそれをガードしたり、軽いブレスを吐いて相殺したりしたが、花京院本人に攻撃ができるはずもない。
承太郎がもたついている間に花京院は身を翻し、通路の方へ走っていってしまった。
「……クソ!」
承太郎は大きく舌打ちして座り込んだ。埒が明かない。近付くことができないなら、向こうから近付いてもらうしかないのか? だがそれには、花京院に記憶が戻るまで待たなければならないということか? もし、もしも、ずっと記憶が戻らなかったら……?
冗談じゃあねえ。承太郎は立ち上がって、また彼を探し始めた。いいアイディアは浮かんでこないが、ここでじっと待つよりずっとマシだ。

ところが。それからフロア内をうろうろしても、花京院らしきモンスターが感知できなくなったのだ。逃げるにしても、向こうも感知をしてからテレポートするはずなのだが……。

承太郎は嫌な予感に冷や汗を流した。もしかして、もう、このフロアにはいないのかもしれない。